活動報告

活動報告(No.53)

2025年(令和7年)5月30日(金)

行政視察(その2):長野県長野市

5月21日(水)から2泊3日で長野県佐久市、長野市及び東京都福生市の行政視察を実施しました。このうち本日は長野県長野市の行政視察の概要についてご報告します。

1 長野市の概要及び調査目的

長野市は県北部に位置する県都中核都市で人口約36万人、周囲は上信越高原高国立公園をはじめとする美しい山並みに抱かれている。1,400年の長きにわたり、善光寺の門前町として栄え明治30年の市制施行により県内で初めての市制がしから、県内の政治・経済・文化及び交通の要衝として発展してきた。
全国的に昨今、上下水道配管の老朽化対策が問題となっているが、そのようななか長野市においては衛星、AI等の最新技術を用いて先進的な老朽管解消事業に取り組んでいる。薩摩川内市においても同様な課題を抱えていることから今回の視察は、長野市の先進的な取り組みを学び薩摩川内市水道事業の資とするものである。
なお、今回の視察においては「AIによる上水道配水管の劣化予測診断」を主な調査対象とした。
※写真は長野市役所

2 長野市のAIによる配水管の劣化予測診断

(1)老朽管解消事業の概要
長野市の上水道配水管延長は、1,890kmで、このうち老朽管に区分される敷設後40年以上の配水管は全体の35.6%に当たる673.5kmとなる。残りの64.4%に当たる配水管は、昭和60年以降に敷設されたものであり、これにはポリエチレンスリーブを採用しており、実質的な耐用年数を80年に長野市で独自設定しているため今後40年は更新する必要がない。
※ポリエチレンスリーブ:水道管に巻くことで水道管が直接土壌と接触するのを防ぎ腐食防止となる。

(2)AI劣化予測診断の導入に至った経緯
長野市では平成27年から老朽化対策を行ってきたが、口径300mm未満の配水支管については長期的な更新計画が存在していなかった。また、全ての老朽管を更新するには30年以上を要するため、その間にも管の劣化が進み破損リスクが高まっていくことが懸念された。一方、これまでの更新事業において古くても健全な管と新しくても劣化している管の存在があり、更新を急ぐべき管が残置され、まだ使える管を更新しているケースもあるのではないかとの疑念が生じていた。
以上のことから管の老化状態を正確に把握し、状態の悪い管から更新することが望ましいが、現地調査をするには多くの時間と費用を要することとなり、また調査には断水や交通規制を伴い市民生活への影響が多きい。
このため破損リスクを抑え限りある予算を効果的に執行するための合理的な「根拠」が必要となった。そこでAIを使った劣化予測技術へ着目することとなった。

(3)AI劣化予測診断の概要
市役所が保有する管路の一定の範囲(セグメント)における材質、口径、経過年数、人口、土地の傾斜等のデータと過去の漏水の有無によりAIに漏水が発生するパターンを学習させる。これに受注会社が保有する人口、土壌、気象など171種類の環境ビッグデータを活用し、より詳細な漏水のパターンを導出、そしてアウトプットとして管路セグメント毎に漏水の可能性を5段階でランク付けする。市は診断結果に基づき漏水の可能性の高いランクの管路から順次更新することとなる。

(4)事業内容
長野市は令和6年度に公募型指名競争入札によりF社と契約しシステム開発を発注、当該システムは本年3月に納品されている。当該AIシステムを使用した運用及び検証は令和7年度から開始されることから、まだその結果を評価する段階には至っていない。
なお、今回の契約は長野市の中心地域の管路380kmを対象とし、契約金額は710,6000円である。

3 成果・所見等

(1)AIを用いた本取組みは、本来道路を掘り起こし調査をしなければ分からない水道管路の劣化状態をAIが瞬時に判定するものであり、もしその結果が正しいものであれば、業務の省力化と予算削減を可能とし、また市民生活へもほぼ影響を与えることもなく実施可能であり極めて画期的なものといえいる。
(2)本取組みは今年度から運用が開始され、これから実績の評価がなされていくこととなるが、他の自治体でも同様な取組みがなされていることから全国的にデータが蓄積され、それをAIが更に学習することで今後継続的に精度の向上が期待できる。
(3)薩摩川内市の水道事業にとっても今後の業務に大いに参考となるものであり、引き続き長野市の取組みの状況を注視していく必要がある。(了)
※写真は長野市議会議場(県産の栗材が壁、床、机等にふんだんに使われている。)