活動報告(No.55):行政視察(東京都福生(ふっさ)市)
2025年(令和7年)6月3日(火)
行政視察(その3):東京都福生市(ふっさ市)
5月21日(水)から2泊3日で長野県佐久市、長野市及び東京都福生市の行政視察を実施しました。このうち本日は東京都福生市の行政視察の概要についてご報告します。
1 福生市の概要及び調査目的
東京都福生市は、都心から西へ約40km、多摩川の東側に南北に広がる、人口約57,000人の市である。行政面積は10.16平方km(薩摩川内市:682.92平方km)と狭く、このうち市面積の32.7%に当たる3.32平方kmを米軍横田基地が占めている。
戦後は基地の町として特異な発展をしてきている。一方、昭和37年頃から基地の町からの脱皮が真剣に考えられ、同年に首都圏整備法による市街地開発区域の指定を受け都市計画を進めてきている。現在は都心で働く人のベッドタウンとして人口も増加してきているが、市内には2社の酒蔵、パン工場等もあり商業都市としての側面も有している。
平成23年3月11日発生した東日本大震災、その後に起きた東京電力福島第一原子力発電所における原子力災害は、未曾有の災害への備えの在り方について多くの課題を浮き彫りにした。福生市はこの課題に対応するため平成25年に福生地域防災計画を修正し、避難所機能・備蓄機能・応急給食機能等総合的な防災機能を併せ持つ「災害時対応施設(防災食育センター)」を整備することとした。同施設は平成29年9月から稼働している。今回の行政視察は、この「防災食育センター」を視察し防災に関する先進的な施策を推進する同市の取組みを学び、薩摩川内市の地域防災施策の資とするものである。
なお、視察に当たっては、防災食育センター研修室で市職員から福生市の概要及び同センターの機能等に関するブリィーフィングを受けた後、施設内の備蓄倉庫、調理室等の見学を実施した。
※写真は福生市防災食育センター
2 防災食育センターの概要
(1)施設概要
防災食育センターの特徴は、防災に特化した機能を持つ施設であるばかりでなく、平常時は応急給食機能を活用し給食センターとしての機能を有し、市内の小学校7校、中学校3校及び学校適応支援室等に給食を調理・配送している。
学校給食センターとしての機能は以下のとおり。
□ 規模構造:鉄骨造・RC造 地上2階(敷地:9,807.58平方m、建物延べ面積:4,844.84平方m)
□ 調理能力:通常給食4,500食、食物アレルギー対応給食100食
□ 提供先 :市立小中学校10校、不登校特例分教室、学校適応支援室
□ 業務形態:業者委託(ハーベストネクスト株式会社、従業員125名)をしており、通常給食及び食物アレルギー対応給食の調理・配送・配膳、施設・車両維持管理及び災害時炊き出し対応
□ 市の業務:献立作成、食材の選定、施設見学対応等、職員数11名
□ その他 :地産地消を始め国産食材使用に努め、加工食品は極力使用しない。また、食育と名がつくとおり同施設は食育展示ホール(災害時は避難所として運用)を備え小学生等に対する食育指導も実施している。
(2)防災機能
災害時の防災機能としては、避難所機能、備蓄機能、応急給食機能等を有している。各機能の細部については以下のとおり。
□ 避難所機能 :約310名の受け入れ、防災広場に救護用テント、簡易トイレを設置。また、帰宅困難者の一次滞在場所ともなる。
□ 備蓄機能 :避難所開設用の毛布等防災備品を備蓄。応急給食用として、米4,500kg(おにぎり9万個)、汁物材料4,500食を備蓄し、学校給食で使用して入れ替えを図っている。
□ 応急給食機能:災害発生後4日目以降最低3日間、市内の避難生活者約15,000人に対し、1人1日1回、おにぎり2個と温かい汁物を提供。
(3)その他
首都直下地震等の大災害発生時には、東京都地域防災計画(震災編)に基づき地域輸送拠点として活用され支援物資や応援部隊を受け入れる。また、災害時に備え大型給水タンクの設置、LPガスボンベの備蓄を行い調理等を可能とするとともに停電時も自家発電で電気を賄うことができる。
3 成果・所見等
(1)防災食育センターの優れた特徴は平常時は学校給食センターとして使用され、一方災害時には防災施設として機能するハイブリッドな機能を有し平常時から災害時まで情勢に応じた効率的な運用ができることであり、これが最大の強点といえる。
当該施設は総事業費約40億円であるが、各種補助(防衛省補助金:30億円、東京都総合交付金:3億円)を活用し、市の負担は実質約7億円とのことである。また、施設の所在地は国有地にあるが、国と交渉し土地の使用料(年約6000万)は無料となっている。このように福生市は基地の町としての特性、国の補助等を有効に利用している。
(2)防災食育センターは、平常時は学校給食センターとして機能しているが、その衛生管理は厳格かつ徹底しており、食中毒等の予防に細心の注意が払われている。また、食物アレルギー食を調理する施設は、通常給食室と施設・職員ともに完全に物理的に分離されており、食中毒等の防止同様に極めて厳格に管理されている。
一方、この衛生管理の徹底さはそのまま災害時にも有効であり、ハード/ソフト両面で平常時及び災害時を見据えた視点が取り入れられている。
(3)以上のとおり福生市の防災への取組みは、一施設で複数の機能を賄うことで効率性が徹底して追及されコストパフォーマンスを優れたものにしており、薩摩川内市においても各施策あるいは施設建設時等において、機能設計あるいは予算の有効活用の観点で大いに参考となる事例であった。(了)
写真:研修室での事前ブリーフィング、調理風景(福生市HPより)